2026年6月2日

ウェブアクセシビリティを数字で考える

機会をいただき 7 月にあるデザインのイベントに参加することになったので、準備をかねてアクセシビリティについての個人的に気になったことがらを調べている。調べたことを数値化して比較したり事実を確認したりしている。

数字は面白い。フォロワー数や体脂肪率など、見た目にはわからないことが、数字になると突然比べたり共有したりしやすくなる。数値化には危険な面もあるだろうけれど、アクセシビリティという捉えづらい言葉の輪郭を、すこしイメージしやすくしてくれるところもある。以前、A11y Tokyo Meetup で拝聴した井出健太郎さんのプレゼンテーションでもそのように感じた。

もちろん、ここで扱う数字だけで、障害のある人の経験がわかるわけではない。わたしがそれを代表して語ることもできない。それでも、職業として情報や環境をつくることをしているからには、これを自分の外側にある話とはしたくないと感じている。

数値のことを考えるとき、わたしはいつもモデルの平子理沙さんが「体重計にはあまり乗らない」と語っていたことを思い出す。年齢も体重も「ただのナンバー」で、数字にとらわれるよりも、自分が心地よくいられるかどうかを大切にしたい、という話だった。1

こんなブログを書いておいてなんだけれど、わたしも数値化はほどほどにいろいろなものを直接、見て知って学んでゆきたいと思う。その上で、今回はいくつかの数字を手がかりに、ウェブアクセシビリティについて考えてみたい。

ADA 成立から 36 周年

2026 年で 36 周年を迎える「障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act / ADA)」は 1990 年 7 月 26 日に成立した。2

ADA は、雇用・公共サービス・公共施設・交通・通信などあらゆる領域で、障害のある人が差別を受けることなく、市民として平等に生活する権利を保障する、世界で初めての包括的な障害者公民権法だ。3

5 つの分野(Title)に分かれていて、Title III (公共施設・商業施設)の文脈で、ウェブサイトやアプリのアクセシビリティが争われている。

成立までには、障害者運動の当事者たちが長年にわたって声を上げ、運動を重ねてきた歴史がある。マイノリティのひとびとが、マジョリティに対して自らの権利を主張し、社会の側を変えていく営みを「アドボカシー(advocacy)」という。ADA によって保障された権利は、障害者運動とアドボカシーによって獲得されてきたものだと言えるだろう。

アメリカ司法省のアーカイブには、当時ホワイトハウスで行われた署名式における、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の演説原稿が公開されている。そこでは、次のように述べられている。

You have in your hands the key to the success of this act, for you can unlock a splendid resource of untapped human potential that, when freed, will enrich us all.
(この法律を成功させる鍵は、あなた方の手の中にあります。解き放たれれば、私たち全員を豊かにする、未開発の人的資源(untapped human potential)という素晴らしい資源を、あなた方は開くことができるのです。)

……中略……

Well, many of our fellow citizens with disabilities are unemployed. They want to work, and they can work, and this is a tremendous pool of people. And remember, this is a tremendous pool of people who will bring to jobs diversity, loyalty, proven low turnover rate, and only one request: the chance to prove themselves.
(私たちの仲間である障害のある市民の多くは、職に就いていません。彼らは働きたいと願い、働く能力があるのです。これは大きな労働者の集まり(a tremendous pool of people)です。彼らは仕事に、多様性と忠誠心、そして低い離職率という実績をもたらし、求めるものはただひとつ、自らを証明する機会だけなのです。)

……中略……

When given the opportunity to be independent, they will move proudly into the economic mainstream of American life, and that’s what this legislation is all about.
(自立の機会を与えられれば、彼らは誇りをもってアメリカの経済的主流へと加わっていく(move proudly into the economic mainstream of American life)のです。この法律はまさにそのためにあります。)

……中略……

Let the shameful wall of exclusion finally come tumbling down.
(恥ずべき排除の壁を、ついに崩れ落ちさせよう。)

社会として権利の保障を宣言するのと同じ場で、障害のある人を「未活用の労働力」「経済への貢献者」として価値づけ直す視線が同居していることには、すこし複雑な気持ちになる。これは今日の語彙でいえば「エイブリズム」にも接続する生産性主義的な眼差しなのかもしれないけれど、当時の社会認識の両面がうかがえる興味深い演説だ、とも感じる。

「障害のある人」はアメリカで 28.7%、日本で 9.3%

「障害のある人」の人口比を見ると、アメリカでは成人の 28.7%、つまりおよそ 4 人に 1 人以上が何らかの障害状態にあるとされている。4
一方、日本では障害者総数が総人口に占める割合は、約 9.3% ほどだという。5

こんなにも差があるのは、「障害がある」とみなす基準そのものが両国で根本的に異なるからだ。

アメリカ(CDC)では、視覚・聴覚・移動・認知・セルフケア・自立した生活、という 6 つの領域において、「本人が困難がある」と自己申告した成人を「障害のある人」として集計している。

日本(内閣府・厚生労働省)では、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の保有者、そして医療機関で把握された患者を中心に集計しているらしい。つまり医学的な判定や行政上の認定を経た人がその対象となりやすい。

たとえば同じ状態の人でもアメリカでは「障害のある人」として数えられ、日本では数えられない、ということが起こる。

障害者の数は、障害のある人が「実際に何人いるか」だけでなく、社会が誰を障害者として認め、支援や権利の対象に含めるかによって変わる。これは、障害を個人の身体や診断の問題として捉えるのか、それとも環境や制度との関係のなかで生じるものとして捉えるのか、という違いにもつながっている。障害とは誰にとっての何なのか、辿っていくとだんだんわからなくなってくる。

1 日平均 24 件の訴訟

2025 年にアメリカの連邦裁判所に提起された ADA (Title III) 訴訟は 8,667 件にのぼる。平均すると 1 日約 24 件のペースで、日々民間事業者や公共施設等が ADA 違反を理由に訴えられているようだ。6

そのうちの約 36%はウェブサイトやアプリのアクセシビリティに関する訴訟で、なかでも EC サイトが大きな割合を占めているらしい。

そのような状況のアメリカではウェブアクセシビリティは「できたらいいね」というレベルの話ではない。誰にとっても情報にアクセスし、それを享受できることは権利であり、そのための環境を整えることは社会の側が果たすべき義務だといえる。

訴訟に関するお金についても調べてみると、要求額や和解金だけで数千〜数万ドル規模に、弁護士費用、サイト改修費用を含めると、総額はさらに膨らむケースがあるようだ。7

罰則があることがいいのかはよくわからないけれど、実際に企業や情報発信側の行動は変わるだろう。訴訟や罰則があることは社会として状況を調整していく姿勢の表れともいえるのかもしれない。

何らかの視覚障害がある人は 22 億人

WHO の推計では、世界の少なくとも 22 億人が、近距離または遠距離の視覚に何らかの障害(vision impairment)がある状態にあるという。8 世界人口を約 80 億人とすると、だいたい 4 人に 1 人以上に相当する。

わたしも日常的にメガネやコンタクトレンズをつけているが、これは近視としてカウントされているのだろうか。裸眼を矯正してしまえば、日常で不便を感じる場面はほとんどない。「障害があるかどうか」は、じつはテクノロジーとも深く結びついているのだと思う。同じ身体の状態でも、環境や道具が変われば、それが障害として経験される度合いも変わる。

わたしはサニーバンクさんとの協業を通じて、視覚障害のある多くの方と一緒にウェブアクセシビリティ向上のためのユーザーテストやレビューを行ってきたが、見え方は本当にさまざまだ。

視力という単純な数字には現れない、色や刺激、焦点調整、視野などに対してさまざまな個性がある。そして、それが生まれつきか、人生の途中からかという時間軸・経験歴も人それぞれだ。

いずれも連続的なグラデーションの上にあって、はっきりと線を引けるものではない。視力を構成するパラメーターはあまりに複雑で、一様に捉えられるものではない。

わたしたちは同じ世界を見ているようでいて、実は一人ひとり異なる見え方をしている。しかもこれは視覚にかぎらず、聴覚・運動・認知などあらゆる感覚・能力にも同じように当てはまる。

わたしが知ったようなことはとても言えないのだけれど、わからないなりにこの複雑さを前提として、作ることを考えたいとは思っている。

インターネットを利用していない人は 26 億人

2025 年初頭時点で世界のインターネット利用者数は 55.6 億人、世界人口に対する普及率は 67.9% に達している。単純化すれば、地球上の 3 人に 2 人が、すでにインターネットを利用している計算になる。逆に、およそ 3 人に 1 人は、依然としてオフラインなのだ。9

若年層のソーシャルメディア利用を控える動きには賛成だけど、「情報」が水や電気、ガスのようなライフラインに近づいているのだとすれば、まだまだ普及率が低いとも言えるかもしれない。

ちなみに、別の調査を合わせると、2025 年の 1 年間で 2 億 4,000 万人以上が新たにオンラインに加わったという計算ができるようだ。10

昨年インターネットに接続したひとびとは、どんな事情でどんな条件のもとからアクセスしたのだろう。

もしかしたら、これから新たに接続される人々には、これまで未接続のままだった地域や層のひとびと、つまりいままでのマジョリティ層ではないユーザーが少なからず含まれているのではないか。そう思って調べてみると次のような記事が見つかった。

途上国における支援プロジェクトなどでは、デジタル技術やインターネットの「利便性」にのみ焦点が当てられ、途上国でも先進国とまったく同じように「楽しさ」「承認欲求」「性欲」が強烈な引きとなることが無視されがちだとアローラ氏は指摘する。途上国の人を「純粋な存在」として平面的に捉える視点のまずさを、植民地時代に遡って紐解いている。

フェアな社会をつくる鍵は、ネットの世界に隠されている/デジタル人類学者パヤル・アローラ | Business Insider Japanリープフロッグ、フルーガル・イノベーションなど、今の時代を語る上で欠かせない概念を掲げてMASHING UPに登壇したデジタル人類学者パヤル・アローラ氏に深堀りインタビュー。www.businessinsider.jp

勝手ながらこれからつながる人たちが、こんなにもアテンションエコノミーと監視が成熟し、リテラシー格差の大きいインターネットに接続して大丈夫なのだろうか、心配にもなるけれど、アローラが批判しているのはまさにこういう視線だ。

「リテラシーの低い彼らは危ういから守ってあげなければ」と外から決めてかかること自体が、上から目線なのだろう。わたしが「大丈夫だろうか」と案じた瞬間に、もう相手の使い道を勝手に値踏みしていたのかもしれない。

アクセシビリティもまた、この危うさと隣り合わせだ。「あなたのために用意してあげた」と感じた瞬間に、権利の話が救済や庇護の話にすり替わってしまう。障壁をできるかぎりなくして、あとは使い道をユーザーにゆだねること。その距離感は大切にしたい。

日本の在留外国人は 395 万人

2025 年の日本国内の在留外国人は 196 の国と地域から 395 万 6,619 人だそうだ。当たり前だけど、よく数えていると思う。ちなみに 2024 年から 5.0% も増えて、過去最高だそうだ。11 中国(約 90 万人)、ベトナム(約 66 万人)、韓国(約 41 万人)、フィリピン(約 35 万人)、ネパール(約 27 万人)と続く。

これは多いのか少ないのか、その体感は人によるけれど、総人口に占める割合はおよそ 3.2% だそうだ。日本語を母語としない在留外国人の方に向けた情報は、何語で書くべきだろう。意外にも、日本に住む外国人の約 8 割は日本語で会話できるという調査もある。

ウェブサイト上では「やさしい日本語」を最近よく目にするようになった。語彙を絞り、文を短く区切り、漢字にはふりがなをふって、日本語初学者にもわかりやすく読みやすくした日本語表現のことをいう。

ただ、ひらがなばかりにすればいいわけではなく、むしろ読みやすくするための工夫が凝らされている。もともとは 1995 年の阪神・淡路大震災で、緊急速報や避難の情報を受け取れずに被災した外国人が多くいたことをきっかけに生まれたそうだ。いまでは外国人だけでなく、子どもや高齢者、障害のある人にも届く方法として広がっている。ここでもやはり、アクセシビリティは特定の誰かだけのものではないのだと思う。

やさしい日本語は難しい日本語の原文をわかりやすくするための代替手段の一つとして使われることが多いが、そもそもやさしい日本語特有の表現を用いた詩や文学が生まれてきたら、それはまた興味深いことだろう。

2025 年 6 月 28 日 欧州アクセシビリティ法が開始

昨年(2025 年)の 6 月 28 日に欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act / EAA)の主要な適用が始まった。12

これは、EU 域内で販売・提供されるデジタル製品やサービスについて、障害のある人を含むすべての人がアクセスできることを法的に義務づけるものだ。同日以降に EU 市場へ投入・提供される対象には、コンピューターと OS、スマートフォン、ATM・券売機・チェックイン端末、デジタル TV 関連機器、電子書籍と電子書籍リーダー、銀行・通信・交通予約サービス、EC サイト などが含まれ、アクセシビリティ要件への適合が求められる。

EU 域外の企業であっても、EU 市場に製品やサービスを提供している限り適用対象になるそうで、日本企業も例外ではない。ケース・バイ・ケースとはいえ罰則も設けられている。EAA が示しているのは、アクセシビリティが個々の企業の善意や努力目標ではなく、市場に参加するための前提条件になりつつあるということだ。

電子書籍については、新たに販売されるものだけでなく、既刊本も(猶予付きで)対象になるという。13 なかなか大きな転換が起きているといえる。

出版・デジタルコンテンツ関連企業の見通しでは、現状アクセシブルな EPUB は市場全体の およそ 10〜12% にとどまる一方、EAA や各国の法整備を背景に、今後 5 年で 35〜40% まで拡大すると見込まれている。14「読める本」が「誰にとって読めるか」を問う動きは、EU の出版・コンテンツ業界でも着実に進んでいるようだ。


というふうに、国内外のいくつかの数値をもとに、情報のアクセシビリティについて考えてみた。繰り返しになるが、ウェブアクセシビリティを考えるとき、わたしがすべてのユーザーを代表して語ることはできない。

それでも、ウェブサイトや情報発信をつくるときは、つくり手がユーザーのことをできるかぎり考えてつくるしかない。

ウェブアクセシビリティをユーザー全員で考えることはできないけれど、ユーザー抜きで考えることもできない。この難しさこそがウェブアクセシビリティなのだと思う。

ぐるぐると考えてしまうところだけれど、数字は答えではなく、誰が見えていて、誰が見えなくされているのかを考えるための手がかりにはなる。読んでくれた方が、ウェブアクセシビリティを「誰かへの配慮」としてではなく、情報をつくるときに引き受けるべきこととして考えるきっかけになれば嬉しい。もちろん、わたし自身もまだ十分にできているわけではない。だからこの文章は、自分にも向けて書いている。


出典

  1. 平子理沙“飾らない”生き方&結婚生活を語る ― モデルプレス(2015 年 2 月 17 日)(Risa Hirako on her unforced way of living ― modelpress)

  2. Remarks of President George H. W. Bush at the Signing of the Americans with Disabilities Act ― ADA Archive(ADA 署名式におけるジョージ・H・W・ブッシュ大統領の演説 ― 米国司法省 ADA アーカイブ)

  3. National Archives — Transcript of Remarks by the President During Ceremony for the Signing of the Americans with Disabilities Act of 1990(米国国立公文書館 ― 1990 年 ADA 署名式における大統領演説記録)

  4. Disability Impacts All of Us ― Centers for Disease Control and Prevention(障害は私たち全員に影響する ― 米国疾病予防管理センター)

  5. 参考資料 障害者の状況 ― 令和 7 年版障害者白書(全体版)内閣府(Reference Materials: Situation of Persons with Disabilities ― Annual Report on Government Measures for Persons with Disabilities 2025 / Cabinet Office, Japan)

  6. Federal Court Website Accessibility Lawsuit Filings Bounce Back in 2025 ― ADA Title III News & Insights(連邦裁でのウェブアクセシビリティ訴訟件数の動向 ― ADA Title III News & Insights、Seyfarth Shaw 法律事務所)

  7. $25,000? Website Accessibility Lawsuits Cost Money ― Medium($25,000? ウェブアクセシビリティ訴訟にかかる費用 ― Medium)

  8. Blindness and vision impairment ― World Health Organization(失明と視覚障害 ― 世界保健機関)

  9. Digital 2025: Global Overview Report ― DataReportal(Digital 2025: グローバル概況レポート ― DataReportal)

  10. ITU’s Facts and Figures 2025 shows steady progress in connectivity, while highlighting gaps in quality and affordability ― International Telecommunication Union(ITU「Facts and Figures 2025」: 接続性は着実に進展も、品質と手頃さの格差が浮き彫りに ― 国際電気通信連合)

  11. 令和7年6月末現在における在留外国人数について ― 出入国在留管理庁(Number of Foreign Residents in Japan as of the End of June 2025 ― Immigration Services Agency of Japan)

  12. 欧州アクセシビリティ法の完全施行 ― ミツエーリンクス(Full Enforcement of the European Accessibility Act ― Mitsue-Links Column)

  13. EAA Backlist Confusion – Looking at Regional Differences ― DAISY Consortium(EAA におけるバックリスト対応の混乱 ― 各国の違いを読み解く ― DAISY コンソーシアム)

  14. Making ePub Inclusive: The Role of ePub3 in Accessibility ― Impelsys(インクルーシブな EPUB をめぐって ― EPUB3 とアクセシビリティの役割 ― Impelsys)